環境色彩研究会からのお知らせ

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2005年7月4日(月) 見学会報告 湯島天神・岩崎邸・韻松亭

報告:上野・池之端「旧岩崎邸」色彩ウォッチングと周辺探訪
・6月26日(日)10〜15:30 ・見学ルート:湯島天神→旧岩崎邸→不忍池→韻松亭
・参加者11名(永田康弘・葛西紀巳子・加藤進久・久保量載・日原もとこ・四野見久仁子・
杉本賢司・福瑠璃子・山川やえ子・吉村耕冶・近藤由利子)
 
 今回は当研究会顧問の杉本氏が公私にわたり関わりを持たれた上野・池之端付近の3カ所を、改築裏話など氏の説明を受けながら巡り、建築仕様の知識も深められる有意義な時間になった。
 
 梅雨真っ盛りの研究会となったが、見学に傘は不要と祈願して湯島天神の総檜(木曽産)の社殿を拝観し、大型木造建築の許可をえ得る為に社務所や回廊など周辺をコンクリート防火壁造とした点や、スプリンクラーが目立たぬように設置されている点、又、錆びやすい鉄釘ではなく竹を煎って釘にしている話はガイドブックでは見つけられない。
 となりの“男坂”に比べ、穏やかな“女坂”を下りながら古い町並みが少し残る白梅商店街を抜ける。池之端「旧岩崎邸」までは喧噪と静寂の境界域だ。
 
「旧岩崎邸」設計者のジョサイア・コンドル(イギリス)は鹿鳴館やニコライ堂等を手がけ日本の西欧式建築の基を築き、日本で初の建築設計事務所を開設した親日家という。
 岩崎邸は旧三菱財閥の3代目・岩崎久弥別邸で当初は現在の3倍以上の敷地を有した。
明治期の代表的な西洋建築の洋館と、書院造りを基調とした和館が結合され、ゲストルームとしての洋館、岩崎家の居住としての和館、そして洋館と地下道でつながった撞球室(ビリヤード場)と3棟を含む庭園、屋敷全体が平成11年国の重要文化財指定となった。

多くの様式を含んだ「旧岩崎邸」をまとめてみよう。
<洋館> Y系高明度色に塗装された木造建築。1階2階ベランダの列柱は微少な色の差を持たせてあるのは様式の違いを意識してか。
*イギリス・ジャコビアン様式*ルネッサンス*イスラムモティーフ*トスカナ式列柱*イオニア式列柱*アメリカ・ペンシルヴァニアのカントリーハウスイメージ
内装の見せ場は権威の象徴といえる階段の豪華さだ。ワニスの鈍い光が築後109年経つ時間の輝きそのものといえる。また金襴手刺繍の天井クロスは圧巻だ。
<撞球室>木造ゴシック。チャコールグレィ。スイスの山小屋風。校倉造り風の外壁。
<和館> 書院造り。橋本雅邦の障壁画を横目に“かき氷”で涼を愉しむ。このミスマッチな
    小休止も気がつけば、緋毛氈の上の抹茶、白玉、あずきと氷。 Ohなんという配色美!

 一番印象に残る色彩は洋館ゲストルームの一部屋を飾る金唐革紙(きんからかわし)
G系のグレイッシュをベースに草花モティーフの鈍い金。とはいえかなり大面積の壁にはやっぱりキンキラと上品を通り越している。が、外人ゲストがひとときをゴージャスに過ごす空間として重厚な芸術壁紙と云えそうだ。

以上の折衷様式は私邸としてはなかなか面白く見応え大だった。施主の勝手なリクエストにもコンドルは丁寧に答えたのだろうか。それとも大財閥の権威が強かったのか。

 洋風の前庭と静寂を後に、長いだらだら坂を下るとすぐに不忍池だ。

さて今回の3つ目のシーンは『食環境の色彩』をテーマに、上野の山の中腹に建つ韻松亭に研究の場を移した。
 その昔、横山大観も居住したという亭は、現在照明デザイナーの石井幹子氏がオーナー。ライトアップは言うに及ばずだそうだが、昼とて窓からの借景は都内有数であろう。
 近景に溢れる緑、中景に不忍池の水面、そして遠景には都心のビル群。
忘れかけた“東京らしさ”のお手本を見た気がする。
さて十品続く豆菜料理は窓からの色彩に負けない『季節の彩り御会席』。 学ぶところの多い高感度配色は体にもやさしい。

 どうやら雨には敬遠され、無事研究会は終了の時を迎えた。
うっとうしい季節だが、時代の風は爽やかだったといえる。
最期にコディネートしてくださった杉本先生に敬意を申しあげたい。ありがとうございました。

        報告作成 山川やえ子 研究会担当記者:永田泰弘

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日本色彩学会
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