(一社)日本色彩学会東海支部 2022年度第1回研究会 開催報告

  • 2022年10月20日

「東海支部2022年度第1回研究会」
日時:2022年10月1日(土)13:00〜14:30
場所:オンライン開催(Zoom 利用) 参加申込:21名

演題:「色が視覚誘導性自己運動知覚に及ぼす影響」
講師:瀬谷安弘 先生(愛知淑徳大学人間情報学部 教授)

 本年度の第1回研究会は、東海支部役員でもある愛知淑徳大学の瀬谷安弘先生を講師としてお招きし、Zoomを用いたオンライン形式で開催されました。
 ご講演では、先生の研究経歴を振り返る形で、多岐にわたる研究成果のご紹介がなされました。まず、スポーツ選手の視覚機能の分析の一環として、先生もかなり本格的に取り組まれてきたという空手を題材に、熟練の選手と未経験者の誘導運動知覚(小さな静止対象を取り囲む大きな視覚刺激[誘導刺激]が運動した際に、静止対象がその反対方向に運動して知覚されるという現象)を比較し、熟練選手の方が誘導運動の効果が大きくなるという結果をご提示いただきました。通常、アスリートは、一般の人に比べて動体視力などが優れているものと考えられますが、先生の結果では、いわゆる「錯視」が大きくなってしまうという結果です。同時に計測された眼球運動のデータを照合すると、熟練選手では、誘導刺激の運動に伴う眼球の動き(視覚運動性眼振;OKN)の抑制が一般人よりも強く、その反映で誘導運動知覚がより強いものになったことが示唆されるということです。止まっている刺激が動いて知覚されてしまうという、いわば「誤った知覚」の背後に、周りの運動情報に惑わされず、眼球を正しい位置に固定することができるという、アスリートの優れた視覚機能が隠されていることがうかがわれる結果であり、意義深いものであると思われます。
 また、産学連携研究としても実施されたビデオゲーム遂行時の有効視野の研究では、アクションゲームやパズルゲームなど、ゲームの種類によりその大きさが変化することをご紹介いただきました。「ガンダム」をモチーフとしたゲームで上下の視野を制限した場合に、ゲーム画面がモビルスーツのコックピットからの視野に似たものとなるため、ゲームのリアリティが増し、ゲーム参加の楽しさが向上したという話は、「ガンダム世代」の私としては個人的に大変興味深いものでした。
 最後に、本研究会のメインテーマでもある視覚誘導性自己運動知覚(視野の大部分を占めるような大きな誘導刺激が一様に運動するのを観察した際に、実際には静止している観察者の身体がそれとは反対方向に運動して知覚される現象)に及ぼす視覚刺激の色彩の効果について話題提供がなされました。無彩色(白)の刺激よりも、有彩色刺激の方が、視覚誘導性自己運動知覚を引き起こす効果が強く、それは赤色刺激を用いた場合により顕著となること、視覚刺激を複数の有彩色で構成することにより自己運動知覚が促進されることなどの結果から、自己身体誘導運動知覚に視覚刺激の色彩が有意な影響を及ぼしうることが示されました。先行研究と一部整合しない側面はあるものの、それまでの視覚誘導性自己運動知覚の研究では色彩の効果がほぼ無視されていたことを考えると、当該研究領域での新たなアプローチの可能性を示す研究であると思われます。

研究会の様子


 瀬谷先生の研究は、従来の知覚心理学的研究に多く見られたように受動的な観察者を想定したものではなく、一貫して観察者の能動的な身体運動が知覚・認知に及ぼす影響を問うものであり、その意味において、知覚における観察者と環境の双方向の動的な相互作用を直接取り扱うことの可能な実践的な枠組みを提供してくれるものです。そこに新しく「色彩」という視座が取り入れられることにより、先生の研究がどのように発展されるのか、大いに期待したいと思います。

中村信次(日本福祉大学)