今回の特別講演は2人によるコラボ講演となりました.
1人目はノートルダム清心女子大学教授で,倉敷美観地区の建造物に詳しい上田恭嗣氏で,建築家 薬師寺主計が深く関わった有隣荘や大原美術館についてお話いただきます.
2人目は倉敷町家トラスト代表理事でいらっしゃる中村泰典氏に,町家再生や活用等について,様々な活動を通じて得られた具体的な事例をもとに,地域の生活文化の継承や創造などをお話頂けることになりました.
両先生とも美観地区に深く携わってこられただけに有意義なお話が聞けるものと期待しています.少しの時間ですが両先生を交えた質疑応答の時間も設けたいと考えています. (秋の大会実行委員 須田勝仁)
特別講演1「ル・コルビュジエを見抜いた建築家薬師寺主計の倉敷における建築活動
―有隣荘と大原美術館の建築意匠について―」 ノートルダム清心女子大学教授
上田 恭嗣氏
〈講演内容〉
倉敷の実業家大原孫三郎(1880-1943)に絶大なる信頼を得た建築家薬師寺主計(1884-1965・岡山県総社生まれ・大学時代は大原家奨学生)の建築活動について紹介したい.
薬師寺は,東京帝国大学工科大学建築学科を卒業後,佐野利器の勧めによって異色の陸軍省に入省した.陸軍省では建築技師として最高の地位に昇り,陸軍省で初めて天皇の技師・勅任技師の称号を与えられた人物である.
1922年,渡欧時に日本人建築家として初めてル・コルビュジエと面談し,彼の国際建築様式につながる考えを聞きとり,図面も入手して帰国した.そして,ル・コルビュジエを日本の建築界に建築雑誌で紹介した最初の人物でもある.
関東大震災の復興後,大原孫三郎の求めに応じ1926年に陸軍省を依願退職,大原家の事業展開に参画した.有隣荘(1928年)は,薬師寺の設計によるものであるが,和風部分は東京帝大教授伊東忠太の指導を受けている.洋風部分は薬師寺が用いたアール・デコ様式で表現された.
しかし,屋根瓦の色や食堂のインテリアは児島虎次郎(大原美術館の西洋絵画を収集した画家)の進言によって中国風に覆った建物である.奇抜な和洋中折衷様式といえる.大原美術館は当初,この場所に建つ予定ではなかった.
薬師寺の進言によって急遽,大原の許しを得て、現在の位置に昭和5年3月に決定された.そして,この年の10月に完成している.当初,大原美術館は赤いスパニッシュ瓦で葺かれる計画であったが,建設途中に急遽,現在の形状に変更となった経緯がある.
建物はローマ建築様式を採用している.これら二つの建物を中心に,建物の建設経緯と建築意匠のあり方について述べたい.
〈略歴〉(うえだ やすつぐ)昭和26(1951)年5月 三重県生まれ,京都工芸繊維大学大学院工芸学研究科建築工芸学修了,平成16年4月からノートルダム清心女子大学人間生活学部人間生活学科 教授,平成20年4月から人間生活学科長.
研究分野:近代建築史・住居学,博士(学術)・一級建築士,著書等 「アール・デコの建築家薬師寺主計」「大原美術館の誕生」.
役職等:日本建築学会代議員,岡山市景観審議会委員,倉敷市伝統的建造物群等保存審議会委員,総社市建築審査会会長,高梁市景観計画策定委員会委員長 等
特別講演2「まちにあかりを灯す」がキーワード! NPO法人倉敷町家トラスト 代表理事
中村 泰典氏
〈講演内容〉
困りごとがないところにはまちづくりの活動は起きない.都市部では,景観,建築物は経済活動で作られる.
経済活動中心にまちづくりが進む一方,住民はどのようにまちづくりに関われるのか.
公共空間の質でまちは変わる.美しいまち並みとは?「まちにあかりを灯す」をキーワードに8つのあかりを灯す活動を進めている.
1. 来訪者があかりを灯す.2. 暮らしのあかりを灯す.3. 商店・事業所があかりを灯す.4. 門灯・看板灯のあかりを灯す.5. 伝統行事であかりを灯す.6. イベントであかりを灯す.7. エコなあかりを灯す.8. 祈りのあかりを灯す.
<略歴>(なかむら やすのり)1951年倉敷市東町生まれ,グリーンハウス(有)代表取締役,(株)エフエムくらしき常務取締役,LLC吉備の国未来計画代表社員,
NPO法人倉敷町家トラスト代表理事,倉敷伝建地区をまもり育てる会事務局長,NPO法人全国町並み保存連盟理事,岡山県地域づくりマイスターなど