日本色彩学会 令和3年度 秋の研究会旬間 2021年11月21日(日)13:00~16:00

  • くらしの色彩研究会
  • 2021年11月29日

日本色彩学会 令和3年度 秋の研究会旬間
2021年11月21日(日)13:00~16:00

美しい日本の色彩環境を創る研究会(LOJ)&くらしの色彩研究会(LC)共催
スペシャルトークイベント
「色は世界を駆ける,色を未来に架ける」

第1部 ~色は世界を駆ける~
「レオナール・フジタの色彩」三木学氏
「日本の美しい色風景,世界の美しい色風景」港千尋氏

第2部 ~色を未来に架ける~
「多様性と色彩」
伊賀公一氏(ゲスト)・疋田万理氏(ゲスト)・篠森敬三氏(ファシリテーター) 

第1部「レオナール・フジタの色彩」では,世界的な画家・レオナール・フジタの展覧会『フジタ―色彩への旅』(ポーラ美術館2021年4~9月開催)で作品の色彩分析を担当した三木学氏より,フジタの場所の移動に伴う色彩表現の変遷,「乳白色の肌」とうたわれた婦人画における肌の質感を表現する為の技術など,西洋画において東洋的な“質感”に重点を置いた表現方法を用いたフジタの絵の魅力が,たっぷりと紹介された(図1).

続く「日本の美しい色風景,世界の美しい色風景」では,写真家でもある港千尋氏による様々な国の色とりどりの風景写真とともに,三木学氏より『日本の美しい色風景』サイトが紹介され,そのプロジェクトの目的である “美しいとは何か?そこに共通認識や違いは存在するのか?” を探った(図2).
中南米キューバの明るい黄色の街並み(図3),地中海に面したモロッコの町タンジールの青い壁,マレーシア・マラッカのチャイニーズタウンの赤やピンク,インドの花市場,そして日本の函館や島根にみる歴史的に使われる屋根の色・・・それぞれが美しいと感じられると共に,その土地の気候や風土,食べ物や音楽が色彩と矛盾していない,という分析から,美いと感じる色風景には “バックグラウンド” が存在する,つまり,環境に使用する色彩はバックグラウンドと矛盾しないものの使用を検討すべきだという方向性が示された.
コロナの影響で観光業界の危機である今,改めてそのまちの魅力を探るチャンスと捉える.

第2部「多様性と色彩―どの人も困らない,どの人も傷つけない色とは? 色覚とジェンダーの視点から読み解く―」では,篠森氏より1960年代のベビー用品から始まった「男の子色=水色,女の子色=ピンク」は,異なる色覚をもつ人にとっては異なる色に見えるという事例(図4),伊賀氏より東京オリンピックで専用レーンに用いられた桜色が,アスファルトのグレーと明度が近いために見分けにくかった事例,疋田氏よりLGBT(Q)等の用語の意味やメディア側がやりがちな失敗などの問題提起が(図6),自己紹介と共に分かりやすくなされた.
続く3者によるディスカッションでは,「多様性とは何か~社会に介在する様々な多様性」「パーソナリティ(個人)カラーとは ~個々の人間に寄り添う色,文化的に定着した色」「社会において “象徴化される色” の課題とユニバーサルカラーの展望」について,それぞれの立場からの見解や今後の課題など興味深い対談がなされた(図7,8).
最後の質疑応答の中で紹介された愛知県大府市の公共施設で実験的に採用されたトイレのピクトグラム(男女とも色とデザインは同一で,ピクトグラムに併記された“男”“女”という文字の違いのみで表示されたもの)を通し,色の持つ役割や意味について改めて考えさせられた.

当日は約100名の参加者とともに,色彩が持つ力,そしてその恩恵をすべての人が享受できる世の中の実現に向けて,今まさに過渡期にある色彩環境 について考えさせられた3時間であった.
(くらしの色彩研究会 会員 山中マキ)

図1「レオナール・フジタの色彩」三木学氏によるトーク
図2『日本の美しい色風景』サイトの紹介
図3「日本の美しい色風景,世界の美しい色風景」港千尋氏によるトーク
図4「多様性と色彩」篠森敬三氏によるトーク
図5「多様性と色彩」伊賀公一氏によるトーク
図6「多様性と色彩」疋田万理氏によるトーク
図7「多様性と色彩」伊賀氏、疋田氏、篠森氏によるディスカッション1
図8「多様性と色彩」伊賀氏、疋田氏、篠森氏によるディスカッション2
図9 多様性への対応策として試みた、トーク音声の文字表示