くらしの色彩研究会 2020年度見学会「岐阜県現代陶芸美術館「ルート・ブリュック 蝶の軌跡」展」観覧 報告

  • くらしの色彩研究会
  • 2020年08月20日

くらしの色彩研究会 2020年度見学会
「岐阜県現代陶芸美術館「ルート・ブリュック 蝶の軌跡」展」観覧 報告

場所: 岐阜県現代陶芸美術館
会期: 2020年6月6日(土)〜8月16日(日)

【はじめに】
 新型コロナウィルス感染拡大の煽りで、恒例の見学会が通常の形式では実施できそうになかったため、くらしの色彩研究会では知恵を絞り、「分散訪問型の見学会」という形を試みた。ちょうど自粛期間明けに、フィンランドを代表する女性セラミック・アーティスト、ルート・ブリュックの日本初個展が東海地区で開催される!場所は、焼き物の街として知られる岐阜県多治見市にあるセラミックパーク内の美術館。コロナ禍の美術館は、事前に電話して、30分刻みで予約を入れるルールであった。そこで、行きたい人が各自で予約を入れてそれぞれに観に行くことにし、会期が終わった後にZoomでオンライン交流会を開催し、感想を交換しあった。本レポートでは、訪問した研究会会員の感想を一言ずつ寄せ集めて紹介させていただく。3密にならない静かな館内で、ゆったりとした時間が流れる中、皆それぞれに、セラミック作品が奏でる豊かな色彩と質感を味わった。(川澄未来子)

【参加者より一言】
 ルート・ブリュックとの出会いは、京都で開催された志村ふくみさんの孫である志村昌司さんのトークイベントがきっかけである。そこで、アートライターの今村玲子さんに、フィンランドで出会い惚れ込んだブリュックの作品を紹介された。今村さんは日本ではまだ無名のブリュックの作品を広く知ってもらいたいう熱い想いで、全国の美術館に掛け合ったという話を聞き、岐阜での展覧会を心待ちにしていた。 暖かみのある優しい色合いの作品、自由な発想、宗教観、絵本の物語のような陶板画に惹き込まれていった。徐々にインテリアデザインから建築的なデザインになるにつれ、具象から抽象へ、多彩な色彩から無彩色へと削ぎ落とされるように変化していく様。 作品の数々はブリュックの生涯そのものをストーリーで観せられたように思え、暖かい余韻にいつまでも包まれた。(住吉佳子)

 フィンランドと言うとマリメッコ、イッタラなどシンプルで大胆なデザインや色使いのイメージだが、ルート・ブリュックの作品は、素朴なタッチで色使いも深みがあり、まるで絵画のようだ。1960年以降は抽象的な表現に変化した。それは学生時代に建築家になりたかった夢が影響しているのではないかと感じた。私は数多くの作品の中で「三つ編みの少女」と「ビルゲル」 1948年 に心を惹かれた。その年は長男サミ君が生まれた年でもある。粗削りな形の陶器に描かれた三つ編みの少女と男の子の横顔がとても愛らしい。(疋田千枝) 

 去年の秋に京都で出会った、「青い蝶」。それが私の「はじめまして、ルート・ブリュック」だった。コロナ禍で延期になり、諦めかけた展覧会。ブリュックの作品に再び会えた時は、嬉しかった。当初は、北欧らしい温かみと哀愁を感じる色合いに魅力を感じていたのだが、順々に作品を鑑賞するうち、「色づいた太陽」というモノトーンの作品が私を惹きつけた。立体的なタイルの光と影、不思議な模様、それが展示室の光満つる大きな白い壁に、目には見えない「色彩」を感じさせながら静かに輝くのだ。いつまでも眺めていたい作品だった。(多田真奈美)

 多様な色づかいに引き込まれた。(低明度の収縮について)彩りと無彩色の印象の違いを改めて実感した。(林亜希子) 

 初期の作品は、愛らしい絵本のようである。厚みのある釉薬が、エナメルのように艶やかでとても綺麗。もっと小さければアクセサリーにしたいほどだ。花も動物も人物も、見る人を穏やかな幸福感で包み込む。後期のモザイク作品は、どこかの星の未来都市を思わせる。丸や四角の小さなパーツを組み合わせる手法は、レゴブロックのようで面白い。具象と抽象、2つの世界にひきこまれる素敵な展覧会であった。(祖父江由美子)

 初期の作品から晩年の作品、作風は変わっていっても一貫して大きな「愛・母性」を感じた。絵本のような愛らしい作品からインテリアに溶け込む作品、建築空間の中にあっても違和感のない作品。彼女の人としての強さと愛を感じずにはいられなかった。色の選び方や成形もとても繊細ではあるが一つ一つ思いを込めて愛を込めて作っていったに違いないと観るものに訴えかける魅力ある展覧会だった。(富本いちこ)             

 焼く前の柔らかい陶板にひっかくように描かれた身近なモチーフや日常の様子、その上から掛けられた釉薬が艶やかで色も美しい。同じモチーフでも掛ける釉薬の違いでまったく違う表情になるので、四角い陶板に標本のように描かれた蝶の作品群は興味深かった。順に見ていくと、小さな作品を集めたような大きめの作品になり、やがて小さな陶片を集合させた壁画のような作品に変化していく。全体を通して彼女の溢れるアイデアとエネルギーを感じることが出来た。(菅 育子)

 前半は北欧の素朴さを感じる一体物の作品であったが、後半は細かな磁器ピースを組み合わせた作品群に変わる。個々のピースは無機質で近未来的終末観にとらわれるが、それらを巧みに配した全体としては、とても暖かさを感じられる。不思議な魅力に取りつかれた展覧会であった。(宮崎浩司)