「研究開発や創造表現に役立つ画像トリミング講座」開催報告
- くらしの色彩研究会
- 2022年07月13日
「研究開発や創造表現に役立つ画像トリミング講座」開催報告
美しい日本の色彩環境を創る研究会(LOJ)とくらしの色彩研究会(LC)が共催する実践講座シリーズ『クリエイターから学ぶサスティナブルデザイン』の第1回「研究開発や創造表現に役立つ画像トリミング講座−美や喜怒哀楽を切り取り,イマジネーションを鍛える−」が2022年6月5日(日)に開催された.環境デザイナーの林英光氏を講師に迎え,川澄未来子氏のナビゲートにより,Zoomによるオンライン形式で開催し,13名が参加した.
最初に林氏から,以下のようにレクチャーを受けた.「複雑性と多様性が進む今,デザイン・色彩は都市計画から暮らし全体に浸透している伝統的な“四神相応”という思想を踏まえ,地域全体の風土や歴史伝説から始めることが大切である.またトリミングの基本的な考え方の“個”と“全体”は切り離すことができず繋がっている.」その後,受講生は2種類の実習課題に取り組んだ.
第1課題は,「個」を切り取り「全体」を見るトリミングであった.実習素材には,全国大会[名古屋]’ 22のメインビジュアル第2弾が使用された.これは立体パズルにヒントに得たキューブに,名古屋の文化的な遺産や造形の画像が9つ配置されたデザインである.受講者はキューブ表面9マスのうち4マスが空欄になっている画像と,そこに配置する4つの画像を受け取った.そしてその4つの画像をトリミングし,ビジュアル全体のレイアウトバランスを考えて,配置するというものであった.それは個と個,個と全体,ひいては2次元から3次元へと,トリミングの繋がりを実感できる実習であった.
第2課題は,人の喜怒哀楽や社会課題のトリミングであった.実習素材には,現在全世界の注目の的である戦争の悲劇を表現したピカソの名作“ゲルニカ”が使用された. 受講者はゲルニカの画像と四角フレームと丸フレームを受け取り,そのフレームに収める形で絵画の一部を思い思いにトリミングし,タイトルを付けて,その意図を共有した.中には爆撃を受けた悲劇の中に希望を象徴する光,母子の姿,平和への祈りのこもった花や手などがトリミングされており,それらを共有することにより,お互いの思いや心理的様相を知ることができた.さらに林氏と活発なセッションが行われたことにより,トリミングの奥深さを感じとることができた.
林氏によると「すべての造形は視覚の力学といえる,と同時に他の五感とも繋がっている.物事の本質的な美しさや心理的様相を踏まえ,“単に画像をトリミングするだけでなく,目的は何か,何を伝えたいのか,誰に見てもらいたいのか”を考え,情感を表現することが大切である」ということであった.私は今回の講座で得られたことを、是非今後の作品作りに活かしていきたいと思った.
最後に,母として女性としての苦悩を描いたケーテ・コルヴィッツの作品が紹介され,心の叫びや真実を語る芸術の情感が伝わる熱い講座となった.トリミンング一つとっても美の追求であり,色彩学の実践であることが理解できた.
疋田千枝(くらしの色彩研究会会員)