(一社)日本色彩学会東海支部 2020年度講演会 開催報告

  • 2021年01月26日

日本色彩学会東海支部2020年度講演会 開催報告

中村信次

「質感と構造色のよもやま話」
講師 大住 雅之 先生 (株式会社オフィスカラーサイエンス)
日時 2021年1月9日13時30分~15時
参加者数 73名
WebEXによるオンライン開催

 2021年1月9日に株式会社オフィスカラーサイエンス代表 大住雅之先生を講師として、「質感と構造色のよもやま話」をテーマに、2020年度東海支部講演会が開催されました。今回の支部講演会は、今年開催された多くの学術イベントと同様、コロナウィルス感染防止の観点からオンライン開催となりました。ご参加の方々と直接お会いできないのは大変残念ではあるのですが、他支部からも含め多くの方々に講演会にご参加いただくことができ、これもオンライン開催のメリットの一つであるということを再確認いたしました。

 ご講演の内容は、大住先生がご自身で技術開発され、世界的にもビジネス展開されているカラーマッチング、カラーシミュレーション技術に関するもので、特に自動車外板塗装に用いられる特殊な光輝材を含む塗料の色彩・質感特性の計測の最先端の技術的内容を、豊富な具体的事例を挙げながらわかりやすくご解説をいただきました。色彩計測・質感計測の技術的な内容以外にも、色彩提案(カラープロポーザル)から塗料製造、アフターマーケットの補修用部品に至るまでの自動車業界の色彩フィールド(Total Color Field)の俯瞰図や、物体色の質感の分析を、色(color)→変(Feel)→艶(Gloss)→輝(Glitter)→様(Pattern)→粗(Roughness)といった階層に分けて把握する視点など、領域を問わず色彩に携わる者すべてにとって示唆に富むお話を頂戴することができました。

 ご講演のもう一つの主題である構造色に関しては、モルフォ蝶の翅に着想を得た新しい塗料技術である“Structural Blue”のご紹介をいただきました(実際にLexusの高級車の限定色として市販されているとのこと)。多層膜干渉を利用して、光学幾何条件の変化に伴ってChromaが非常に大きく変動するにもかかわらず、その色相角はほぼ不変となるという特性を持つ塗料であり、色相不変の特性に関してはお手本としたモルフォ蝶の翅よりも優れているということが、実際の測定データに基づいて提示されました(そのためにわざわざAmazonでモルフォ蝶の標本をご購入されたとのこと!)。このような新しい技術が低廉な価格で普及することによって、自動車のカラーデザインに新たな潮流が生まれてくることを期待させる内容でした。

 また、ご講演の後半には、茶道具(袱紗や茶碗)、茶室建具の色彩・質感計測に関する事例もご紹介いただき、測色に関する最先端の技術が、伝統文化の理解と保存にも活用することができることをお教えいただきました。ご講演後の質疑応答でも、構造色を活用した人工的な塗装技術やカラーシミュレーション技術の進化に伴うカラーモックアップの応用可能性の拡大など、様々な観点からの質問がなされ、ご参加いただいた多くの方にとって実りの多い講演会になったのではないかと思います。