(一社)日本色彩学会東海支部 2021年度講演会 開催報告

  • 2021年12月15日

(一社)日本色彩学会東海支部 2021年度 講演会 開催報告

日時: 2021年12月11日(土)13:00〜14:30
場所: オンライン開催(Zoom 利用)
演題: 「わたしたちは何を見たいのか」
講師: 篠田 博之 先生(立命館大学情報理工学部教授、日本色彩学会会長)

 日本色彩学会東海支部の2021年度の講演会では、現日本色彩学会会長である篠田先生に「わたしたちは何を見たいのか」というテーマでお話し頂きました。篠田先生のご専門は心理物理学、視覚情報処理、色彩工学、照明視環境、法心理学などであり、特に錯視の研究では第一人者でいらっしゃいます。

 講演では、まず人間の「視知覚」の成立と目的について、および視知覚と錯視の関係についてご説明頂きました。我々の視知覚の目的は、対象となる物体の物理特性、すなわち、大きさ、三次元形状、材質、表面特性、反射率、分光反射率などを正しく知ることです。この物体の物理特性(遠刺激)は、観測によらず不変ですが、網膜に入ってくる刺激(近刺激)は観測する環境によって大きく異なります。例えば同じ物体でも、遠いものは網膜上で小さく、近いものは大きく投影されます。また、同じ分光反射率を持つ素材からの光でも、光源のスペクトル形状や強度の違いによって網膜の視神経細胞の活動は異なります。このように我々は、環境に依存して偏った網膜情報(近刺激)から、対象となる物体の恒常的な物理特性(遠刺激)を推定しなければなりません。この推定は、網膜情報(近刺激)を「環境要因」と「恒常的な物体情報(遠刺激)」に分離することで行われます。この高度な情報処理こそが「錯視」の原因だというご説明でした。錯視は、遠刺激の恒常的な物理特性の推定において生じる現象であることから、数ある錯視の要因は、明度・色恒常性(照明と物体の分離)によるもの、大きさの恒常性(距離と物体サイズの分離)によるもの、などに分類することができます。ご講演では、様々な錯視の例を実際に聴者が体験できるように例示しながら、それがどの恒常性によるものか説明頂きました。

 また別の視覚情報処理として、我々の脳には、注目した対象の観測分解能を高めるために、対象が持つ特定の特徴量の弁別能力をブーストする機能があります。例えば輝度差弁別、色弁別、顔弁別などが挙げられます。それぞれの弁別能力を上げる(不要な特徴量の弁別能を下げる)仕組みも錯視に関係しており、それらの錯視の例も実際に体験しながら、ご説明頂きました。

 後半では、篠田のご専門のひとつである法心理学に関するお話をして頂きました。特に、当時世間を騒がせた舞鶴高校生殺害事件における目撃証言を実証するために、篠田先生が色覚の専門家として捜査に貢献された興味深いお話しを頂きました。最後には、視覚におけるウェーバー・フェヒナーの法則が、どうデジタルサイネージの信号灯視認性へ影響を与えているかなど興味深い研究成果をご紹介いただきました。

 本講演会には全国より84名の参加申し込みを頂きました。全体を通して、視聴者が実際に錯視を体験しながら、先生にそのメカニズムをご説明頂く流れで、話しにどんどん引き込まれる大変興味深い講演でした。この度ご講演頂いた篠田先生には心より感謝申し上げます。

深井英和(岐阜大学)