平成28年度東海ヤングセミナープログラム
- 2016年02月28日
日本色彩学会東海支部 第12回東海ヤングセミナー
日時:2016年2月28日(日)16:00-18:00
場所:名城大学名駅サテライト
プログラム
支部長挨拶 日本色彩学会東海支部長 中村信次
口頭発表
発表時間:13分程度(報告10分程度,質疑と交替で3分程度)
座長:高橋晋也・羽成隆司
1. 16:00-16:13 山田千博(岐阜女子大学 家政学部生活科学科)
「天然染料よる合成繊維の染色」
2. 16:13-16:26 山田実季(岐阜女子大学 家政学部生活科学科)
「絵本の言語的・色彩的解釈」
3. 16:26-16:39 柴田冴香(椙山女学園大学文化情報学部メディア情報学科)
「岡崎市景観の色彩特徴(研究計画)」
4. 16:39-16:52 柴田望里(日本福祉大学子ども発達学部)
「ランチョンマットの色が料理写真のイメージに及ぼす影響」
5. 16:52-17:05 下村彩文(日本福祉大学子ども発達学部)
「色嗜好と性格特性の関係」
6. 17:05-17:18 津田有莉奈(名古屋市立大学 芸術工学部 情報環境デザイン学科)
「『不安』を感じさせる色彩の研究-自然界の表層を元に-」
7. 17:18-17:31 張禎(愛知県立大学人間発達学研究科)
「色彩環境の変化が身体運動能力に及ぼす影響」
8. 17:31-17:44 小島千明(東海学園大学)
「管楽器の音による色彩イメージ」
9. 17:44-17:57 渡邊みのり(静岡文化芸術大学デザイン学部空間造形学科)
「キャンパスにおける記憶に残る空間の調査」
閉会
発表要旨
1. 山田千博(岐阜女子大学 家政学部生活科学科)
「天然染料よる合成繊維の染色」
家庭生活用品素材の中で、染色の困難な合成繊維素材に着目し、それらを合成染料ではなく、天然染料を使用して、環境に配慮したエコカラー染色を行い、家庭用品への応用染色を検討した。アカネ、カリヤス、トマト、シブガキ、オオキンケイギク、ウコンなど17種類の天然染料を用い、室温でアルコールやアセトンで、色素を抽出した。抽出液に5種類(ポリエステル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリウレタン)の布を常温で1日以上浸漬し、試験布を中性洗剤で洗濯を行った。抽出溶液アルコールの場合、特に、塩化ビニルとナイロンの染色性が高いことが判明した。また、アセトン抽出用液を用いれば、多くのの色素において、塩化ビニル布は収縮しながら濃色に染まることが明らかとなった。このことは、塩化ビニルの家庭用品の天然色素によるエコカラー染色が実用的に可能になり、抗酸化や紫外線防止の高い健康的で環境負荷の低い製品ができることを示唆している。
2. 山田実季(岐阜女子大学 家政学部生活科学科)
「絵本の言語的・色彩的解釈」
絵本から得られる色彩情報、色彩的イメージおよび言語的イメージの関係を画像解析、官能評価、因子分析などにより詳細に検討するとともに、読み聞かせによる感情喚起の効果についても明確にすることを目的とした。絵本『すてきな三にんぐみ』では、平均彩度は全体的に低くいが、平均明度は、ページが進むにつれて高くなっていく傾向が見られた。各ページの全体的な色調は、ストーリーが進むにつれてグレイッシュトーン(重い、暗い、陰気)からペールトーン(明るい、優しい)へと変化し、同時に色相も寒色から中性色、暖色へと変化していることから、ストーリーの質的展開(暗→明、怖い→優しい)とうまく連動していると判断した。L*(明度)平均が高くなれば色彩的イメージと言語的イメージのポジティブ性が高くなり、色彩感情効果とよい対応関係にあると推察された。因子分析の結果から、この絵本は①色彩的イメージ、②色彩の鮮やかさや豊かさ及び③言語的イメージに関係する3因子から特徴づけられた。
3. 柴田冴香(椙山女学園大学文化情報学部メディア情報学科)
「岡崎市景観の色彩特徴(研究計画)」
岡崎市は、2015年は徳川家康公顕彰400年、今年2016年は市制施行100周年を迎え、より盛り上がりを増している。現在は「おとがわプロジェクト」と、観光産業都市、コンパクトシティの実現に向けて、東岡崎駅から康生に至る乙川周辺地区を中心に、まちなみを活かした岡崎らしい「都市の風格」づくりが展開されている。このように市の中心部は観光地として整備され、美しい景観が作られつつあるが、中心部や観光スポットから外れた場所では、色彩特徴に問題のある街並みも散見される。本研究では、岡崎市の美しい景観づくりに寄与するため、実在する特徴ある街並みの色彩特徴、および、岡崎市の景観計画について検討することを目的とする。本報告では、研究計画の概要、岡崎市の街並みのサンプル、景観計画に携わる市担当者へのインタビュー計画について説明したい。(ご参加者からのご批判やアドバイスをいただければ幸いです。)
4. 柴田望里(日本福祉大学子ども発達学部)
「ランチョンマットの色が料理写真のイメージに及ぼす影響」
食品の色彩が、その食品に対する味覚イメージに大きな影響を及ぼすことが多くの研究により示されている。しかしながら、これまでの研究は、食品そのものや食器に注目してきたものが多い。食品の味覚イメージに、テーブルコーディネートを構成するその他の要因がどのような影響を及ぼしているのだろうか?今回は、和食、洋食、中華の3種類の料理写真において、赤、青、黄、緑、白、黒の6色のランチョンマットを配置した際、それぞれの印象がどのように変化するのかを、11項目の評価項目を含むSD法を用いて検討した。26人の大学生が参加した実験において、モノクローム版を含む計24種類の料理写真がプロジェクタを用いてスクリーンに投影された。和食と洋食では、ランチョンマットの色によって似通った視覚イメージが形成されるのに対し、中華では黒のランチョンマットにおいて、「やわらかい」「あたたかい」評価が高くなるなど、他の2種に比べ特徴のある結果が得られた。
5. 下村彩文(日本福祉大学子ども発達学部)
「色嗜好と性格特性の関係」
視覚的連続スケール(Visual Analogue Scale; VAS)により計測された橙、赤、黄、白、茶、緑、黒、青、紫、灰、ピンクの11色に対する嗜好の度合いと、日本語版Ten Item Personality Inventory(TIPIJ)により計測された回答者の性格特性とを比較した。115名の大学生が参加した調査の結果、赤に対する嗜好度が外向性と有意な正相関(0.25)、神経症傾向と優位な負相関(-0.20)を示すなど、赤色嗜好と性格特性との間に一定の関連性があることが示唆された。羽成・高橋(2009)により提起された複数色に対する色嗜好スタイルを示す指標(色嗜好の偏りなど)と有意に関係する性格特性は見出せなかった。また、色に対するこだわりが高い者はピンクを好み、色に対するステレオタイプ的思考が強い者は、各色に対する嗜好度がばらつきやすいなど、先行研究を支持する結果も得られている。
6. 津田有莉奈(名古屋市立大学 芸術工学部 情報環境デザイン学科)
「『不安』を感じさせる色彩の研究-自然界の表層を元に-」
色彩は感情に大きな影響を与え、心地よい色彩がある一方で、不快感などネガティブな感情を感じさせる色彩も存在する。色彩心理に関する研究は数多く行われており、心地よい色彩は我々の生活を豊かにするために活用されている。一方、ネガティブな感情を感じさせる色彩の研究や活用は、多くなされていないと言っても過言ではない。だがしかし、ネガティブな感情を感じさせる色彩であるからこそ意味を成す例もある。自然界における「警戒色」は、自然界で目立つ派手な色彩をすることで、生物が捕食者から身を守る役割を果たしている。色鮮やかな警戒色は、我々も目にした際に、気持ち悪いなどのネガティブな感情を感じる。また、我々は目を背けたくなるようなものに対して、嫌だと思いつつも、つい惹かれてしまう、といった感覚を持っている。気持ち悪さや不気味さなどの「不安」を感じさせる色彩を、自然界の表層を例に、先行研究の考察やアンケート調査により明らかにし、「不安」を感じさせる色彩の魅力的側面を探ることで、新たな人間の美的感覚や活用を考察する。
7. 張禎(愛知県立大学人間発達学研究科)
「色彩環境の変化が身体運動能力に及ぼす影響」
色彩によって周囲の環境から様々な情報を得ることができる。色彩から得る情報は私たちの感情や気分は色に大きく影響されている。運動やスポーツの分野では,数多くの研究がされている.現在までに,行われた色彩と運動パフォーマンスに関する研究の中では,スポーツや運動を行う場所,ボールや的などの器具,及びユニフォームの色彩に関するものに大別できる.本研究は,色彩環境の変化が人間の身体運動能力との関連性を探るために,それぞれの色彩作業環境の中で、動作正確性、身体バランス、疲労性及び運動の基本である筋肉の働きを定量的に計測していた。その結果から、色彩環境の変化により、動作正確性、全身反応時間、垂直跳びおよび運動前・運動中・運動後における脈拍などに関する結果が得られた。これからの研究構想としては、人間の性別や年齢の差異で、色彩環境での身体運動能力の究明をしたいと考えている。
8. 小島千明(東海学園大学)
「管楽器の音による色彩イメージ」
「音刺激が与えられた時、聴覚と同意に色覚が生じる」ことを色聴というが、色聴者でも、同じ音や同じ楽器から同じ色をイメージすることは稀だという。では、一般の非色聴者ではどうだろうか。色聴者とは異なり、楽器に関する知識や音を聞いた経験に影響されるのではないだろうか。本研究は、26名の非色聴者を対象に、管楽器の音による色の連想を調べる実験を行った。木管楽器8種類、金管楽器5種類、計13種類の管楽器によるスケール音を聞かせ、無彩色3色を含む51色の色票からイメージに最も近い色を1色選ばせた。選択実験は2シリーズ行い、第1シリーズでは事前情報なしに、第2シリーズでは、音を聞かせる前に楽器名とともに楽器のモノクロ写真を呈示した。結果、高音楽器で選ばれた色相は黄や黄みの橙に集中した。低音楽器のチューバでは無彩色が多く選ばれた。明度彩度については、木管楽器に比べ金管楽器では、知識を得た2 試行目の選択色が、より明るくより鮮やかになる傾向が示された。この結果は、金管楽器は金色や銀色が主流なため、モノクロ写真では明るく見えたことが影響したと推測した。
9. 渡邊みのり(静岡文化芸術大学デザイン学部空間造形学科)
「キャンパスにおける記憶に残る空間の調査」
記憶された空間にはどのような要因が関係しているのかを明らかにするために、本調査を行った。3年以上学内に居る学生と教職員の男女25名を対象に、まず、大学のキャンパス内における「好きな空間」「嫌いな空間」とその理由をヒアリングし、選定された全ての空間をキャプション評価法で分析した。選定の空間数に限度は設けていない。調査の結果であげられた、好きな空間51カ所、嫌いな空間34カ所、計85カ所について分析した結果「空間の開/閉」、「光の有無」、「風通し」、「人(視線)の多少」が、空間の記憶に関係している主な要素と考えられ、具体的な色や形ではなく、抽象的な感覚の組み合わせで記憶されていることが多いことがわかった。さらに、この結果から、自分が小さいころ「藤棚の空間の強い匂いから藤色が苦手になった経験」を基に、色の記憶について考察したことをまとめた。