日本色彩学会関東支部 2025年度講演会 開催報告

  • 2026年02月10日

NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』の影響もあり,江戸時代の浮世絵師の活躍に関心が集まっている。日本色彩学会関東支部では,浮世絵師・歌川広重の色彩表現と構図技法をテーマとした講演会を2025年10月5日に開催した。講師として大久保純一氏(すみだ北斎美術館館長)をお迎えし,「東海道五拾三次」をはじめとする代表作を中心に,広重がどのように遠近法と色彩を融合させ,独自の写実性と情感豊かな風景描写を生み出したかについてご解説いただいた。

講演「広重名所絵の構図と色彩」
 講演の前半では,浮世絵における風景画の成立過程が概説された。近世日本における透視図法の独自の発展や,葛飾北斎の陰影法を取り入れた実験的な表現を経て,広重がこれらを融合させて写実的な風景表現を実現し,浮世絵における風景画の普及に寄与した経緯が紹介された。広重は当時流行していたプルシアンブルー(ベロ藍)を効果的に用い,空や水の奥行きを色彩で表現したことも,浮世絵による風景画が大衆に受け入れられた一因であったことが示された。
 後半では,広重の作品を示しながら,構図と色彩の関係が具体的に解説された。「東海道五拾三次」では,時間帯や天候の微細な変化を,ベロ藍と紅の対比や,藍と墨の重ね摺りなどを用いて巧みに表現しており,透視図法と色彩による空気遠近法の併用による奥行き表現が解説された。また,「東都名所」や「名所江戸百景」などでは,二点透視法の導入や,前進色と後退色の対比的配置による視覚誘導の効果が紹介された。とりわけ,《日本橋之白雨》《御油旅人留女》《木曽路之山川》などの作品では,色彩の濃淡や対比を用いた印象的な表現がなされており,色彩によって豊かな空間と情感の表現が生み出されていることが示された。

質疑応答
 講演後の質疑応答では,富士山の描写や雨の表現方法に関する質問が寄せられ,初摺と後摺との色彩の変化についても話題が及んだ。初摺と比べて後摺では,色彩の発色や濃淡がやや弱まる傾向があり,同じ作品でも摺りの時期によって色彩の見え方が大きく異なる点に関心が集まった。

 本講演会は,浮世絵の色彩を構図的・技法的な点から捉え直す貴重な機会となった。広重が用いた透視図法のような構図的手法のみならず,空気遠近法や前進・後退色のような空間表現としての色彩の活用は,現代においても示唆に富むものであり,日本における色彩文化研究の重要性を再認識する機会となった。(筒井亜湖・関東支部)

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