『プロのクリエイターが見せる、語る!ファッションの現場』開催報告
- 美しい日本の色彩環境を創る研究会
- 2023年04月01日
美しい日本の色彩環境を創る研究会(LOJ)とくらしの色彩研究会(LC)が共催する実践講座シリーズ『クリエイターから学ぶサスティナブルデザイン』の第3回『プロのクリエイターが見せる、語る!ファッションの現場』が2023年2月25日(土)にオンライン形式で開催され,約60名が参加した.今回の実践講座では,瀧波季絵子会員(シューケア商品プランナー)・渡辺真由子会員(ジュエリーデザイナー)・疋田千枝会員(洋服クリエイター)が名城大学に集合し,そこからファッションにおける持続可能性をテーマにそれぞれの創作活動の経験を紹介した.その後,3名でテーブルを囲みながら同テーマで対談を行い,その様子をAIが360度方向で人物を自動追尾するカメラ付きマイクスピーカーで撮影し,臨場感あるライブ配信をした.
まず,最初の話題提供では,瀧波季絵子会員が「シューケア商品ビジネス」について語った.瀧波会員は布の染色会社を営む家に生まれ,たくさんの色に囲まれ育った.同時に規格外として大量廃棄される布を目の当たりにし,それについて問題意識を持ったことが,滝波会員の現職であるレザーケア用製品プロデューサーになったきっかけだと語られた.なぜ今アップサイクルが重要かの説明では,日本国内で廃棄される量だけでも,45cm幅の道で換算すると地球半周分にもなるという繊維業界の現状を伝えた.また,靴磨き業界に必要なブランディングの話題では,靴磨き用布製品を利用する実例を動画で紹介した.靴磨き職人は革というものを研究し,靴磨きを通して靴の寿命を延ばすサスティナブルな職業で,その手仕事を魅力的に演出し“職人の色”を印象付けるのが,カラフルな靴磨き用布製品である.その靴磨き用布製品を瀧波氏は,本来なら廃棄される反物の端を再利用し,美しい色に染め上げて製作,靴磨き職人御用達シューケア用品“Liriche”として世に出した.瀧波氏のクリエーションは,繊維のみならず革製品の持続可能性をも重視しており,大変有意義な活動であると感じた.最後に瀧波会員は,身の回りのものを大切に使うことを提案した.
次の話題提供では,渡辺真由子会員が「アクセサリーデザイン」について語った.まず,渡辺会員のパリの服飾専門学校時代に学んだ,先人による過去の作品(絵画など様々なもの)のリサーチと美しいもののインプットは,製作活動において最も大切であることを語った.リサーチは過去のものから未来へと繋がることによる伝統文化の継承となり,それはデザインの持続可能性であるという.そしてブランドジュエリーは,ブランド・アイデンティティーとリサーチによる過去の美しいデザインの融合により生まれていることも話した.イブサンローランやクロエでの仕事経験の話題では,ハイブランドのために創られるデザインは凄まじい量で,表に出るのは厳選されたごく一部であり,それがブランド品の高価格の理由の一つだと述べた.次に最近の渡辺会員が製作に関わったジュエリーについても紹介した.中には,LGBTQ+ のレインボーフラッグや,SDGsのロゴといった,社会情勢がそのインスピレーション源となっている製品があり,カラフルな色合いが魅力的であった.最後に締めくくりとして引用されたヴィヴィアン・ウエストウッドの「過去において人間が何を成し遂げたかを理解し、それを今日のものと比較するよう努めるべきです。そうすれば私たちは、原因と結果の因果関係が分かるのではないでしょうか。そこから、未来がどんなものか少しずつ見えてくるかもしれません。」という言葉は,渡辺会員の信念を示していた.
最後の話題提供は,疋田千枝会員の「着物リメイク」である.疋田会員は義母から洋裁教室を継承したのをきっかけに,洋裁の世界に入り生徒の指導を続けている.「自分で製作した着心地の良い洋服はストレスがなく,15年間ほぼ市販の洋服を買っていない.注文を受けて製作する自分以外の人の服も,着る人との対話に時間をかけながら,ジャストサイズの一点ものを作る.」と語る.これまでの様々な着物リメイク作品を紹介した後は,川澄未来子会員所有の道行を利用したワンピース製作について解説した.パーソナルカラー診断に始まり,デザインの提案,採寸,原型とパターンの作成,シーチング(綿生地)での仮縫い,着物を解き,洗って裁断,着物生地での仮縫い,本縫い,と数多くの作業を経て,着物地と明るい銀糸の帯地(リサイクル素材)を組み合わせたワンピースが完成し,着やすさと美しさの両方を叶える作品となった.川澄会員は「この道行は結婚前に母と一緒に誂えた大切な着物だが,道行のままでは絶対に着ないと思うので,海外(東南アジア)のセレモニーで活用できるワンピースになりとても嬉しい.地球も喜んでいる.」と感想を述べた.リメイクは着物の価値を知っているからこそできることで,手間をかけることの大切さを伝えたいと結んだ疋田会員の言葉が,その丁寧な手仕事とともに印象に残った.
三者の対談では,持続可能性について語り合った.ファシリテーターの森友令子会員の「プロだからこそ,消費者として気を付けていることは何か」という問いは,購入時に長く愛せる素材を見分ける力,素材を傷めず長持ちさせる日々の手入れ法,血縁に限らず次世代にものを繋げる継承の形,と壮大なスケールの話題へと発展した.リサイズができるように仕立てた紳士物のジャケットや,しっかりした作りの紳士靴を親から子へ引き継ぐ例など,三者三様の立場や経験から提供されたさまざまな情報とアイデアは,自身の日常を見直すきっかけとなった.また,諸外国と日本の色に関する違いに関する話題では,渡辺会員がフランスでは幼稚園児のうちから美術館で本物に触れ,絵画や演劇から色を学ぶのだと述べた.それに対し瀧波会員と疋田会員も,日本でも伝統文化である歌舞伎鑑賞など,幼い頃から本物に触れる機会を導入すべきだと意見を述べた.他にも,多くの日本人は自然の色に安心感を覚え,ベーシックカラーを好む傾向があることや,商品開発の場で鮮やかな色を“捨て色”とするのは日本特有の事例であること,また,ウクライナカラーを例にとり,メッセージ性のあるコーポレートカラーに日本人が気づきにくいことなども話題となった.
最後の挨拶では羽成会員が,サスティナブルを支えるために必要なものは,より高次元の文化への意識や教養ではないかと述べた.また,様々な革の端切れを縫い合わせたカラフルなシューズや,長年愛用している疋田会員製作のオーダーメイドシャツを紹介し,愛着のあるものを大切に使い続けるその魅力や楽しさを伝えて,閉会となった.
祖父江由美子 多田真奈美