『国際芸術祭「あいち2022」から学ぶアートとまちの魅力』開催報告

  • 美しい日本の色彩環境を創る研究会
  • 2022年10月24日

 美しい日本の色彩環境を創る研究会(LOJ)とくらしの色彩研究会(LC)が共催する実践講座シリーズ『クリエイターから学ぶサスティナブルデザイン』の第2回『国際芸術祭「あいち2022」から学ぶアートとまちの魅力 ­ 生きているまちを活かすアート,活かされるアート ­』が2022年9月13日(火)にオンライン形式で開催され,36名が参加した.国際芸術祭「あいち2022」のチーフ・キュレーター(学芸統括)飯田志保子氏を講師に迎え,ナビゲートをLOJ幹事の三木学氏が行った.

 最初に三木氏が講師の紹介と本日の流れを説明し,飯田氏から国際芸術祭「あいち2022」の開催目的や特色について20分間のレクチャーを受けた.ここでは,2010年から始まった「あいちトリエンナーレ」から,今回の国際芸術祭「あいち2022」に至るまでのテーマの核となるキーワードの変遷として,都市(2010)→大地(2013)→旅・人間(2016)→情(2019)→生(2022)が紹介され,「あいち」の芸術祭が毎回異なる芸術監督によるテーマ展であることや,時代や社会の背景を踏まえ,テーマが決まること等が説明された. 周期開催される国際展の意義のひとつは,時代と社会を定点観測することだからである.今回のテーマは生きることに焦点をあてた「STILL ALIVE」である.このSTILL ALIVEを考えるために芸術監督が掲げた9つのサブテーマに該当する作家や作品をキュレーターが提案し,具体的な場所や作品の展示順を決め,作品同士が対話をしながら繋いでいくストーリーを展開し,来場者を導くようにしている.STILL ALIVEは,「コロナ禍で私たちはこれからどう生きていくか」という時代的な応答であり,着想は,愛知県出身の河原温のIAM STILL ALIVEという電報を使った作品(「私はまだ生きている」と,30年間にわたり約900人に送り,自分の「生」を宣言し続けた)のアイデアから得たとのことである.また,河原温が世界的に重要な愛知県出身のコンセプチュアルアーティストであることにより,「コンセプチュアルアートとは何か?」「現代美術の源流とは?それは一つなのか?地域によって複数の源流があるが近代まで評価されてこなかっただけではないか?」といった問いを包括したテーマがSTILL ALIVEであり,それを多角的に解釈し,展示のストーリーを作り,展示していると説明を受けた.    

 続いて,各会場の見どころについて20分間のレクチャーを受けた.愛知芸術文化センターは,STILL ALIVEの多角的な解釈をダイジェストで観られる会場として鑑賞のスタートに適している.10階,8階,地下2階と降りていく動線に従ってSTILL ALIVEを紐解いていくことができ,さまざまな「時間」の概念や文字を用いた表現,「生きている身体」から「自然」,「宇宙」に至るまで思いを馳せるようなエンディングとなっており,ここからまちなか会場へ出かけてもらう流れが推奨されている.愛知芸術文化センターの紹介に続き,有松(染物のまち),一宮(織物のまち),常滑(窯業のまち)のまちなか会場に展示された作品について解説をいただいた.

 飯田氏のレクチャーの後,三木氏より「日本の美しい色風景サイト」について説明があり, LOJ幹事の川澄氏も加わり,対談を行った.ここでは,サイトに投稿された1枚の写真から,一宮のモーニングの話に始まり,愛知県には茶色い食べ物が多いこと,その理由として味噌や醤油の食文化があること,味噌や醤油を貯蔵する樽や甕をつくるため常滑で大きな焼き物ができたことなど,産業と食べ物が密接に関わっていることや,常滑の土は強度があるため土管や甕など大きなものが作られるようになったこと,それらが海を経由して有松の絞りの染料を入れる甕として使われるようになったこと,木曽三川を通じて一宮にも物資が輸送されていることなど,産業と物流の面からも3会場が繋がっていることなど,色々な話題が飛び交った.更に,二重ハートのロゴデザインが愛知県全体の形状を象徴した形であることや,猩猩緋(スカーレット)のカラー選定の理由として地域に根差した色であることなどが説明された.まちなか会場,常滑,一宮,有松のイメージカラーの有無についての質問や,3会場が選ばれた理由なども話題に出た.会場選定は,文化的・地場産業的な特徴が色濃く現れているところで,パッと見て分かりやすいというビジュアルインパクトや街並みの面白さを重要視したとの説明を受けた.芸術監督の片岡氏自身が愛知県出身でまちの特徴をよく知っていることも大きかったようだ.

 質疑応答では参加者から活発な質問が出て大変盛り上がった. 最後に三木氏から,国際芸術祭「あいち」は今後も特色のある地域が舞台になっていくため,色風景のプロジェクトと連動できる可能性があることを示唆してお開きとなった.

LC・LOJ幹事 ながなわ久子