景色通信Vol.5『心にしみいる木の色と香り』
- 環境色彩研究会
- 2007年04月21日
景色通信Vol.5
『心にしみいる木の色と香り』
何度でも帰りたくなる場所がある。ここ屋久島で原始林へ入り、木の香りにつつまれながら湧水を口にする。すると心身がたちまち澄みわたるような気持ちになり、数千年も生きつづけた樹木とともに、日本古来の木の文化へ思いを馳せずにはいられない。
私たち日本人は小さな島に住んでいるといえる。そのなかで豊かな自然林は、雨水の涵養を繰りかえして育ち上質の水を提供してくれる。とかく緑色の葉に注がれる視線を木の幹の方へ向けてみると、いままでも木の中で暮らしてきた自分に気がつくだろう。大きな森を守り育てることは、地域の未来にとって有意義なことである。そして森林を維持するには手間ひまがかかる。ボランティアや募金をしてまでも守り育てたいと思う一方で、開発のために一瞬で消滅してしまう儚さを感じることも多い。
美と書いたとき、美しいとは羊が大きくなることでもあるという。経済効果のほかに心の豊かな広がりとも解釈できよう。「木は鉄よりも強し」「木を見て森を観ず」…木に由来する表現は枚挙にいとまがない。木の文化が私たちの心の財産として、これからも受継がれることを心から願ってやまない。(加藤進久)