景色通信Vol.17『ランドマークとは?』
- 環境色彩研究会
- 2009年06月09日
景色通信Vol.17
ウンブリア紀行:ペルージャ①『ランドマークとは?』
ウンブリア州は、「イタリアの“緑のハート”」と呼ばれています。このネーミングが示すように、ウンブリア州は農産物や酪農が産業の中心をなす自然の恵み豊かな州であり、長靴の形をしたイタリアのほぼ中央に位置しています。
その州都がペルージャ。2つの丘の上(標高:493m)に立地し城壁に囲まれた、典型的な城郭都市の特徴を有したまちと言えるでしょう。と同時に、今も残るエトルリア門が示す如く、その起源はローマ時代以前の紀元前3~5世紀ごろのエトルリア時代までさかのぼることが出来ます。私はここにある国立ペルージャ外国人大学に通って、本格的にイタリア語の勉強をスタートさせました。国立ペルージャ外国人大学は、約90年前の1921年に設置され、イタリア語を中心にイタリアの芸術・文学・歴史のコースが開設されており、世界中から集まった約7,000人の学生が学び且つイタリア生活を楽しんでいます。ちなみに、ペルージャの人口は、2006年で16.1万人であり、90年の歴史・4.3%の学生人口構成比、これらの数字を見てもまちにおける大学のランドマーク性が充分推測されるでしょう。
訪問当初は、もうひとつの目的である「環境色彩と同時に、その対象であるまち(それ自体)を研究する」ため、寸暇を惜しんでまちの探索に出かけました。といっても、イタリア語で講義される(のを承知でチャレンジしたものの)イタリア語の授業にまったくついていけなかったため、気分転換にというのが本音ですが。そのようなある日、近くのおもちゃ屋さんに入ってお土産の品定めをしていたところ、単語を並べるだけの会話(?)しか出来ない私を旅行者ではなく大学の学生だと、店主のおばあちゃんが気付きました。そして気付くや否や、態度が一変し形式的な買い手に対する売り手の対応ではなく親しみをこめた優しさを体全体で表現し、「時間があれば、このお店にいらっしゃい。ここは子供がたくさん集まっているし、地元の人々の溜まり場にもなっているのですよ。ここでみんなとお話をすれば、イタリア語なんか、すぐにマスターできますよ!あなた方は、あんなに難しい日本語を話せるのですから。」とまで言ってくださったのです。また、借家の近くの行きつけのバールでは頼みもしないのですが、そこのバリスタが私の怪しげなイタリア語を懇切丁寧に直してくれます。そのときは、イタリア人の好きな(?)単なるおせっかい程度にしか感じていませんでしたが、このおばあちゃんに会えて、ペルージャの住民にとって大学が単にモノ(施設)としてのランドマークではなく、その学生を心から歓迎し且つともに生活する仲間・同僚として位置づけていることに気付きました。大学は、住民が心から誇りを感じその学生たちとともに日常生活を共有しているランドマークだったのです。
我々は、環境色彩計画においてランドマークを考えるとき、大きさ・形状等々モノとしての特徴からアプローチしがちですが、地域住民にとっての(モノではなく)心に共鳴するランドマークは何なのか・また心のありようとして日常生活の中でそのランドマークをどう位置づけているのか等々住民の“心のランドマーク”まで踏み込んで調査・検討しているのでしょうか?単なる旅行者ではなく約3ヶ月この地に滞在したがゆえに可能となったペルージャの人々との暖かい出会いから、環境色彩計画について考えさせられました。(長谷川博士)
丘の上にあるペルージャの街
城郭都市ペルージャの眺望
エトルリア門と国立ペルージャ外国人大学
バンヌッチ通り