東海支部 美的感性研究会共催 2023年度講演会『音の世界の研究から美的感性を考える』
- 美的感性研究会
- 2023年12月18日
東海支部 美的感性研究会共催 2023年度講演会『音の世界の研究から美的感性を考える』
日時:2023年12月9日(土)13:00〜16:00
参加者数:現地参加22名,オンライン30名程度
概要:
2023年12月9日(土)13時より,講演会「音の世界の研究から美的感性を考える」が,名城大学天白キャンパス校友会館3F会議室にて開催されました。Zoomによるオンラインも併用し,ハイブリッドでの開催となりました。愛知淑徳大学人間情報学教授,人間情報学部長の牧勝弘先生,関西学院大学工学部教授,感性価値創造インスティテュート所長の長田典子先生をお招きし,音や感性の世界から美や色との接点についてお話しいただきました。
牧先生からは「名器と名演奏家の音の特徴と感動を生む脳」とのタイトルにて,3次元多視点計測から明らかとなったバイオリンの音響特性や演奏者による音響特性の違い,さらには音にまつわる様々な話題について研究成果とともに紹介いただきました。具体的には,奏者の熟練に伴う演奏技術の違いがバイオリンの音放射の空間特性の違いとして現れること,名器ストラディバリウスの音響特性が他の同時代のバイオリンとの比較でも異なる音響特性を示すこと,特に900Hz前後の音が正面方向に強く放射されること,バイオリンの違いがその打診(タップ)音の音響特性にも現れることなどを紹介いただきました。その他,音の空間放射特性を再現する球形スピーカーの製作およびその心理効果に関する研究も紹介いただき,より実際の音響特性を反映するスピーカーではリアルかつポジティブな印象を人に惹起させることなども紹介いただきました。
長田先生からは「感性工学におけるプロダクトデザインと美的感性」とのタイトルにて,高価値付加,個人最適化としてのプロダクトデザインや感性工学の視点から,美的感性の研究事例について紹介いただきました。具体的には,倍音成分から基本周波数成分を推定する人の知覚特性(ミッシングファンダメンタル)を利用した擬似重低音の付加は10%程度であれば好ましさを低下させずにポジティブな印象を付加できること,自動車車内でのエンジン加速音や定速走行音に対する感性評価には個人差が認められるものの,美しさは快・不快に寄与しないことなどを紹介いただきました。また,特定の物理情報から複数の感覚が生じる(音を聞くと色が見えるなど)共感覚者の特異な感性やピアノ演奏者の熟練に伴う腕動作の変化に関する研究成果についても紹介いただきました。いずれのご研究も,同じ情報を受容したとしても,その後得られる感性は必ずしも一貫しないこと,個人差があることが紹介されました。
お二人からのご講演の後に,若田先生および川澄先生を中心に,色彩との接点も含めて議論しました。全体として,物理的な音響特性とそれを受け取る個人の要因によって,得られる知覚や感性に違いが生じることが紹介され,これは色彩でも光学特性と個人の特性によって知覚や感性が変化することと同様であり,色彩研究においても得るものの多いイベントとなりました。