景色通信Vol.7『あさくさ、蝶よ花よ』

  • 環境色彩研究会
  • 2007年07月30日

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景色通信Vol.7
『あさくさ、蝶よ花よ』

芸妓さんに逢いたい一心で三社祭へ行った。時代小説やテレビ映画のなかで度々お目にかかる彼女達に対し、メディアを通して構築されたイメージしか持っていなかったのだ。その日は、パレード出発前の本物の芸妓衆を見る幸運に恵まれた。真っ白な顔に艶やかな着物姿は見るものを釘付けにする。昼間だとむしろ迫力があるという表現がふさわしいかもしれない。長い稽古を重ねて芸を磨き上げた者が発するオーラが感じとれる。月夜か行灯の明かりのなかでは一層華やかであろう容姿である。これまで浅草の通りは、それぞれに粋や風情をテーマにしたまちづくりを模索してきた。長い歴史と庶民文化に新しい方向性を融合させるには創造力や感性が必要かもしれない。界隈で暮らす人やそこを訪れる人にとっても、季節ごとの行事はこれからも伝承して欲しいだろう。
後日、観音裏を色彩調査に訪れた。穏やかな色の建物からふと眼をそらすと、コムラサキらしい蝶が花から花へと舞っていた。自然の色のあまりの美しさに暫く心身が動かなくなった。それは富士山の山開きに合わせて行われる植木市でのこと、懐かしい祖母の笑顔に出逢えたような幸福な一日だった。(加藤進久)