景色通信Vol.10『神楽坂 市井の人々』

  • 環境色彩研究会
  • 2008年06月10日

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景色通信Vol.10
『神楽坂 市井の人々』

若葉輝く季節なのに蒸し暑い。夕暮れ時に鎌倉時代からある古道を通り、兵庫横町の石畳を歩いた。黒塀と見越の木々など古き良き日本の伝統が残り、花柳界の情緒ただよう横町や路地をゆけば、芸者さんにばったり出会えることもある。この辺りでは外国人も多く見かける。手仕事の現場も多く点在するらしい神楽坂には、日本が世界に誇れるロゴデザイン「家紋」を描く職人や染色のアトリエなどもある。それぞれ作り手の人柄が宿る現場や料亭・レストラン同士は、どこかお互いを尊重し合うことで個人と個人はつながっているように観える。和と西欧の違いはあっても、ほかでは珍しくなった連帯感のある飲食店や町並みが独特の文化を形成している界隈。だからこそ人々は民族を超越して、その魅力ある風土に引かれ、坂の多いこのまちに集まってくるのかもしれない。
都会の中でコンパクトに形成された集落のように、訪れるたびに人々の匂いやまちの営みを感じとることができる神楽坂は、休日や昼時は歩行者天国になるほか、車の進行が午前と午後で変わる全国でも稀な逆転式一方通行を採用していることも、このまちならではの特徴である。今でもただよう通りや路地の風情は、再開発の勢いの中で残してゆきたい大切な文化だといえる。(加藤進久)