日本色彩学会環境色彩研究会主催 シンポジウム 報告

  • 環境色彩研究会
  • 2019年04月30日

日本色彩学会環境色彩研究会主催 シンポジウム
これからの日本の景観
-屋根・眺望景観から《考える》環境色彩-

◆2019年3月23日(土)
◆13:30 ~ 16:35
◆東京大学 中島董一郎記念ホール

シンポジウム「これからの日本の景観ー屋根・眺望景観から《考える》環境色彩ー」報告
環境色彩研究会では、昨秋の研究会大会において、屋根・眺望景観を「知る・学ぶ」をテーマに研究発表会及び招待講演を開催した。引き続き、これらテーマについて「考える」場としてシンポジウムを行った。

歴史ある伝統的建造物と、それをとりまく環境をどのように繋げていけばいいのか、一般地域の屋根眺望景観では、どのように地域特性を見つけ形成していけばいいのか、環境色彩にはさまざまな課題が存在する。これからの日本の景観について、色彩を中心としつつも色彩だけでない視点から、屋根・眺望景景観から《考える》場としたく、企画したものである。

プログラム
13:30      開会
Ⅰ部 13:35~14:25 基調講演
<これからの日本の景観 ー色彩の問題を中心にー>
西村幸夫氏 (神戸芸術工科大学教授  東京大学名誉教授)
Ⅱ部 14:25~15:05 <今に繋がる歴史的景観〉 近藤隆則氏 (岡山県高梁市長)
15:05~15:45 <赤瓦の映える景観まちづくり> 山本雅夫氏 (島根県江津市都市計画課長)

Ⅲ部 15:50~16:30 パネルディスカッション
コーディネーター : 西村幸夫氏
パネラー      : 近藤隆則氏 山本雅夫氏 高山美幸氏
16:30      閉会

 

シンポジウムは、会員、非会員合わせて72名の参加があり、プログラム通りに進行した。
以下、各部の概要と開催結果を報告する。

<Ⅰ部> 基調講演 西村幸夫氏(神戸芸術工科大学教授、東京大学名誉教授)
都市工学研究者として、街づくりに長年にわたって携わった日本各地の具体的事例を基に、街の人達の意識が共有したコミュニティが存在するならば街を変える可能性があることを、地域の街並みを紹介しながら具体的に示された。それらの地域には、饒舌でない引き算のまちづくりがあったこと、つまり、多様性と調和の実現であり、具体的には本物の素材と建物スタイルの存在である。色彩は、色の質感を活かすことが重要であり、色で差別化を図るのは最後の手段であること、まずは形やデザインを考えること、その過程で自然界にある形や色について学ぶことは多いだろうと示唆された。

<Ⅱ部> 講演 近藤隆則氏(岡山県高梁市長)
最初に、昨秋の西日本豪雨災害の被害状況の報告とともに全国の方々から支援を頂いたことに対し謝辞を述べられた。
今に至る吹屋伝建地区内でのまちづくり形成について、また吹屋ベンガラの歴史(銅とベンガラで繁栄し、ベンガラはここから全国に広がった)、吹屋の街中を走るボンネットバスを街並みに合わせるため色を変更したなど、伝建地区における景観行政についての具体的な取り組みについて、住民の理解なしではすすめることができなかったこと等の説明がなされた。

講演 山本雅夫氏(島根県江津市都市計画課長)
昭和30年頃にはどこでもあった赤瓦(石州瓦)景観が50年代には黒瓦の中に混じる程度までになった現実を踏まえ、その後、江津市のローカルカラーは赤瓦にあることをコンセプトに、景観行政の取り組みについての説明がなされた。石州瓦については瓦自体も古くからあった色むらという風合いが消失した大量生産の時代もあったこと、コストはかかるが、さまざまな風合いを持った赤色の瓦が街で見られることによって美しい景観となることを述べられた。

<Ⅲ部> パネルディスカッション
色彩が、景観の阻害要因となることの一つに、素材の良さを活かすことができていないコストの問題等があるが、なぜ地域独自の素材に目を向けられないのか、実際に会場に展示した12枚の石州瓦を取り上げつつ、活発な討論がなされた。その中で、地域の景観形成において残念なことの一つに、地域の良さを地域の中にいる人が気づかないことが多いことに焦点があたった。
最後は、西村教授から、地域の良さというのは外から訪れた人こそわかることが多いこと、地域以外の人達が気づいた地域の良さを発信していくことの重要性を参加者に伝えて締めくくった。

<総括> 本シンポジウムでは、参加者に屋根景観を実感して頂くために、12枚の実際の石州瓦を展示し、年代に伴う色の違い等を観察してもらった。これは石州瓦工業組合様、江津市都市計画課様、木村窯業所様の協力があって実現できえた。目の前で観察できる機会が得たことで多くの参加者が撮影し記録にとどめていた。関係者に深く感謝したい。
参加者の多くは非会員であった。日本色彩学会が社会に及ぼす影響を考えれば、今回のシンポジウムは学会内の研究者だけではなく開かれた場で考えることの意義を示すことができたのではないかと考える。参加者の約70%の人が提出して頂いたアンケートには好意的な意見が多く、色彩景観についての関心のレベルが高いと認められた。関東各地だけでなく、福島、愛知、奈良、広島など全国から参加して頂いた。今後の研究会の活動に背中を押して頂いたと受けとめたい。

会場前展示風景

会場


屋根眺望景観展示パネル

 

基調講演

<これからの日本の景観 ー色彩の問題を中心にー>
西村幸夫氏 (神戸芸術工科大学教授  東京大学名誉教授)

 

<今に繋がる歴史的景観>
近藤隆則氏 (岡山県高梁市長)

 

<赤瓦の映える景観まちづくり>
山本雅夫氏 (島根県江津市都市計画課長)

◆パネルディスカッション

◆展示ご協力
・石州瓦工業組合
・㈱木村窯業所
・江津市都市計画課
・浜田市教育委員会教育総務課
・浜田市産業経済部産業政策課
・高梁市吹屋村

高梁市吹屋村ベンガラ

浜田市原井小学校校舎
建物調査報告書

各地の石州瓦