美しい日本の色彩環境を創る」研究会 日タイ共同ワークショップの報告

  • 美しい日本の色彩環境を創る研究会
  • 2019年03月16日

「美しい日本の色彩環境を創る」研究会  日タイ共同ワークショップの報告

【開催日】 2019 年 3 月 16 日(土)
【場 所】  名城大学ナゴヤドーム前キャンパス(愛知県名古屋市)
【スケジュール】
11:30 ランチミーティング @北館 1F MU Garden Terrace
キャンパスツアー:ACA2019 Nagoya 会場案内
13:30 研究会および総会 @西館 2F レセプションホール
14:00 日タイ共同ワークショップ @西館 2F レセプションホール
   (Joint Workshop on Landscape Design with Thai Color Researchers)
   共催:  名城大学アジア研究センター
ゲストスピーカー:
Dr. Chanprapha PHUANGSUWAN(ラジャマンガラ工科大学タニヤブリ校)
Prof. Mitsuo IKEDA(ラジャマンガラ工科大学タニヤブリ校)
コンテンツ:
「景観のドミナンス」林英光
「景観色彩の最近の取り組み」川澄未来子
「タイの景観」Chanprapha PHUANGSUWAN「タイの色彩デザインの傾向」Mitsuo IKEDA
景観研究についてのディスカッション(全員)
参加者: 10 名

【内容と感想】
再び寒波到来で肌寒い 3 月 16 日、真夏のタイ王国からお二人の研究者をお招きし、景観の色彩についてのワークショップを開催しました。名城大学ナゴヤドーム前キャンパスは、今年 11 月末に開催予定のアジア色彩学会(ACA2019 Nagoya)の会場です。ご参加いただいた皆さんには午前中に発表やバンケットの予定地を見学していただきながら、「美しい日本の色彩環境を創る」研究会として、ACA2019 でどのような企画を準備できそうか、アジアから来られる若い研究者やデザイナーの人たちにどのような情報発信ができそうか、また、ACA2019 という機会を利用して研究会がどのように発展していけそうか、具体的に考える絶好の機会となりました。
はじめに、研究会主査の林先生から、「景観のドミナンス」というタイトで、 現在の日本が向かうべき大きな方向性が示されました。景観ドミナンスとは、地域の風土・歴史・伝統がもつ支配的なパワーのことです。そのドミナンスに沿って人々の感性が景観形成に作用していくことの重要性を説かれました。数多くの写真が示されましたが、その中で、林先生が 30 年以上前にタイやマレーシアで手がけられた日系メーカの工場のカラーデザインも披露されました。その地域のドミナンスを具現化しつつ機能美に満たされたカラーデザインを、タイ人の研究者とともに拝見しました。
続いて私から、昨年始めた新しい研究事例 2 件を紹介させていただきました。一つは、景観色彩の良し悪しの指標化にディープラーニングという AI の技術を用い、それによって世の中の景観の実情を可視化しようという試み。もう一つは、街を走るすべてのモビリティの外装がディスプレイ化してパブリックデザインの一部になる時代を想定し、美しい景観や安全に貢献するモビリティカラーとは何かを模索する試み。これは国や地域を問わず、今、世界全体が向かっている、社会の情報化の流れに沿った取り組みになります。
そして、チョンプー先生と池田先生のお二人からは、タイの気候や季節、カラフルなフルーツや食べ物や花々、ローカルな田園風景や道路景観、伝統的な寺院や遺跡、鮮やかな製品パッケージデザイン、タイの人々の色彩感覚や嗜好性、仏教をベースにした色彩文化などについて、数多くの写真を示しながら語っていただきました。中には、街の電線が束になってぶらさがっている光景や、道路上のあちこちで犬が寝そべっている光景など、現在の日本では見られなくなった写真もありました。
このような「強い」色彩の中で暮らす東南アジアの人たちにとって、日本の景観がどのように映っているのか、意見を交わしました。第一に、東南アジアにはない「季節」にまつわる景観、例えば、桜、紅葉、雪などを伴う景観を大変魅力的に感じていること。第二に、伝統的な色調にまとめられた景観を美しいと感じ、派手な看板で覆われた道路景観を美しくないと感じるなどの感覚は、私たち日本人と共通していること。大きくこの 2 点が確認できた気がしました。
また、議論を進める中で、たった1枚の写真だけで景観の良し悪しを答えることはできない、と皆で認識するに至りました。一部だけ切り取って見ても、地域全体やそのフレームの背景にある「文脈」を理解しない限り評価できない、というのが重要なポイントです。その地域に根付いている風土・歴史・伝統(ドミナンス)を知らずして、その地域にあった景観は作れないし、ドミナンスを無視して評価すること自体がナンセンスである、と改めて気づかされました。AI 技術を使おうとしている私としては、入力に写真画像だけでなくドミナンス情報をどのように与えるかが課題であり、そうしなければ当然 AI の学習は成功しないと認識しました。その場所によって求められるドミナンスが異なるわけですので、仮に同じ景観に対しても、ドミナンスに応じて時にはベストという評価がつき、時には NG という評価がつくこともあるわけです。ただ、ドミナンスというものは天才アーティストのセンスでしか捉えられない・扱えないものである、と言われたら、私の研究はおしまいです。そして、日本の景観も一部の天才の手によってしか、改善も維持もできなくなってしまいます。工学的に取り組む立場から、ドミナンス情報の取り扱い方を考えてみたいと思います。
日本と東南アジアというドミナンス・ギャップが大きい両者の間で意見を交わすことにより、今まで混沌としていた課題が少し明確になったように思いました。ACA2019 Nagoyaにはアジアからたくさんの方が参加されますので、その機会をさらに活用しながら、この研究会の今後の活動方向性を明確にしていければ、と感じた一日でした。

(名城大学・川澄未来子)